南アジアの砂埃と半導体産業

更新日:2026.3.16

数年前、パキスタンを訪問する機会があった。日本ではニュースで取り上げられることが多くない国であり、私自身それまで馴染みのない国であった。しかし実際に現地を訪れると、夕日に照らされたモスク、街に漂うスパイスの香り、イスラム教徒の女性たちの色鮮やかなスカーフなど、印象に残る多くの光景に出会った。

 しかし半日も外を歩くと、髪は空気中の砂や埃でごわつき、鼻をかむと煤や塵でティッシュが黒ずんでいることに気づいた。室内の床を指でなぞれば、砂ぼこりが積もっている。髪を守るためにスカーフをかぶると、意図せず現地の女性のようになった。

 世界の大気状況を調査した2024年の結果によると、パキスタンの大気汚染レベルは138カ国中3位で、同じく南アジアに位置し国境を接するインドは5位と報告されている[1]。主な原因は野焼きや花火、排気ガスなど人的要因のほか、地形的な特性も挙げられる。さらに水質汚染も深刻で、上水の約70%が汚染により飲用に適さないとされている。

 こうした環境状況を思い返すと、近年、隣国インドで半導体産業への投資が盛んになっていることは興味深い。強固な製造基盤を十分に持たないインドでは、経済安全保障のため自国の生産力強化を目指している。しかし、半導体の生産には極めて清浄な空間と高純度な水が不可欠である。例えば、半導体工場は「クリーンルーム」と呼ばれる、塵や埃(パーティクル)が限りなく低減された環境であることが要求される。また、生産時には、シリコンウェハ上の不純物を取り除くため、「超純水」と呼ばれる極限まで不純物が除去された水が大量に使用される。パーティクルはシリコンウェハの回路パターンに欠陥を引き起こし、半導体製品の歩留まりを低下させるため、数ナノメートルのものでも生産ラインに混入することは極力避ける必要がある。自国民への綺麗な水や空気、エネルギー供給に課題があるとされるインドで、貴重な資源をどう産業用に確保していくのか、その技術と実現方法に注目が集まっている。

 インドは半導体産業での自国のプレゼンスを高めるため、電力や水不足の解消や、水質・大気汚染の改善に政府主導で取り組んでいる。例えば、晴天の多い地理的特性を活かして太陽光発電の導入を推進し、過去10年でその発電量は約30倍に拡大した[2]。また、水質改善のため排水設備の整備を進めるとともに、国内水消費量の8割を占める農業分野での水資源の利用方法を見直している。

 弊社が取り扱うパーティクルカウンタは、空気中や液体中のパーティクルの数や大きさを測定する機器であり、クリーンルームや超純水などの清浄度測定に使用される。現在、製造者やユーザの多くは先進国が中心であるが、今後インドでの需要拡大も期待される。既に多くの日本企業がインドの半導体産業へ進出していると聞く。インフラ整備や現地の人材育成において課題は少なくないとされるが、日本のものづくり技術と結びつきどのように発展を遂げていくのか、製造業に携わる者として注目していきたい。

リオン株式会社 微粒子計測器事業部 開発部 大橋沙季

 

参考文献
[1] “World’s most polluted countries & regions”, IQAir, https://www.iqair.com/world-most-polluted-countries, 参照日2026/3/6.[2] “Renewable capacity statistics 2025”, IRENA,
https://www.irena.org/Publications/2025/Mar/Renewable-capacity-statistics-2025, 参照日2026/3/6.

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