No.7 新型コロナウイルス感染防止における空調管理

更新日:2020.6.20

本年3月12日、世界保健機構(WHO)は、新型コロナウイルス感染症がパンデミック(世界的流行)に入ったことを宣言した。早期の終息が見通せない状況であるが、感染経路は、人の日常的の行動と人間活動と密接な関係がある。人は本来群れたがる生き物である。そうした特性が人の文化を発展させ高度な科学技術を持つことになった。

現在、地球的規模におけるグローバル化を推進するための高速通信技術と移動交通手段であるジェット航空機が、世界中に網目状に張り巡らされ、ウイルスの運び屋となる人の「密集と移動」を加速度的に増大している。人は中南米やアフリカ、さらには極地など今まで人が立ち入ることのなかった未知の領域にも足を踏み入れ、何10万年もの間手付かずであった自然の生態系を変えつつある。こうした人の好奇心や冒険心からくる行動が未知のウイルスによる感染拡大に都合のよい条件を与えてしまった。これからますます野生動物や鳥類などが宿主として保有するウイルスとの接触(いわば未知との遭遇)が起こると、ネイサン・ウルフが、「パンデミック新時代」(NHK出版)で警告している。今からちょうど100年前の1918年、第1次世界大戦を終わらせることになった「スペイン風邪」は、鳥インフルエンザによるものだが、世界中に蔓延して集計2000~4000万人が2~3年間で亡くなったが、新型コロナウイルスでは、昨年12月に中国・武漢から始まってわずか半年間で40万人もの人の命を奪ったことになる。

新型コロナウイルスの正体は、SARS-CoV-2というRNAウイルスである。現在までに発見された7種あるコロナウイルスの中から突然発生した。もともと人の風邪を起こすウイルスは、ライノウイルスが主で、それ以外の10から15パーセントをコロナウイルスが起こすと言われている。本来のコロナウイルスは致死率の低いものであるが、ここ数年間では、2002年に中国に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)や2012年アラビヤ半島で流行したMERS(中東呼吸器症候群)などは高い致死率をもつ世界を震撼させたウイルスであり、それらは同じコロナウイルスの仲間である。コロナという名前の由来は、太陽のフレア(王環)のような形から来る。スパイクタンパク質状突起をもち、大きさは、80~120ナノメートル(1mmの10億分の1)である。自ら増殖できず、粘膜細胞などに侵入して自らの遺伝物質を増やす。細胞内から出たほぼ球形に近いウイルス粒子は、咳やくしゃみで体外に排出され、飛まつとなって保菌者の2m以内に落下する。ウイルスの形から飛散しやすく、空中をただよう間に大半の水分が失われ、マイクロ飛まつ(ウイルスを含む水滴)、感染力をもつエアロゾル(生物浮遊粒子状物質)となり、3時間以上室内に滞留すると研究報告にある。武漢のレストランでの感染事例では、そこに設置されたエアコンの空気の流れに沿ったテーブルの数名の客だけが感染したという事例がある。WHOは、このウイルスをCOVID-19と命名した。

かつて、東京都の研究機関に在職していた時、都内Mホテルの結婚式宴会場でノロウイルスの感染流行があった。患者が吐いたウイルスが床やカーペットなどに塵埃として残り、翌日の宴会に集まった400名の客に集団発生が起こった。ノロ対策のためタスクフォースのチームが結成された。ノロウイルスの感染経路には、口からの飛まつ感染と保菌者のおう吐物によるダスト感染がある。実験はノロ代替ウイルスを混ぜた模擬おう吐物を床に落として、舞い上り空中に浮遊するウイルスをエアーサンプラーで採取した。その結果、強い感染力のある3~7ミクロンのエアロゾルが2時間以上浮遊することが判明した。(感染対策ICTジャーナルVol.5 No.4(2010))

ノロウイルスと同じく新型コロナウイルスの予防対策には、マスクと手指の消毒などの標準的予防に加えて、空気からの感染予防が必要であるため、室内の窓の開閉による換気が必要となる。厚生労働省のコロナ対策のクラスター班が三つの密(密閉・密接・密集)を避けるための行動を提唱している。では、空調システムの整った一般のビル環境で、空調の稼動によって、こうした3密をコントロールするにはどうしたらいいかを提案したい。

第1は、人の密集する居室を換気(ベンチレーション)することである。空調のあるビルでも出来る限り窓の開閉を行い、1時間に2回、新鮮な外気を取り入れる。新しい空気と入れ替えて、はき出された汚染空気を除去することである。そのコツは、窓の開閉方向を双方向性の対角線上の窓にして、おおよそ20センチメートル程度を開放すること(全開にすると外気が逃げる)、外気の入りこむ窓を小さめに開けるとより効率があがり空気が入りやすくなる。こうしたちょっとした工夫で、室内に外気がスムーズに流入する。第2は、空気の循環(サーキュレーション)である。エアコンの気流は、室内に空気の流れ線に沿った動きを形成する。その流れに乗った排出されたウイルスは、循環を繰り返す間に水分を奪われ、乾燥によって不活化する。ウイルスの空気中での生存時間は、環境中の湿度にも左右される。冬季にインフルエンザや風邪がはやるのは、低湿度の空気環境が影響している。果たして、これが新型コロナウイルスにも当てはまるかは今後の研究課題であるが、一般に高湿度の環境では、インフルエンザウイルスは短時間で失活し、すみやかに感染力を失う。第3は、人と浮遊空中ウイルスとの接触率を下げるため、換気量を大きくすることである。コロナ対策として人との間に2m以上の距離をとる、いわゆる社会的デイスタンスを保障するために、空調の換気量を多くして、環境中に放出されたウイルスの希釈と除去を積極的に行うことである。こうして、空調システムでの空気の3密(よどみ・滞留・長い空気年齢)を避けることで、エアロゾルとして浮遊したコロナウイルスからの被ばくをさけることができる。

JADCAの空調システム清浄度評価委員会は、ビルの空調システム全般にわたって、それぞれの現場に対応した空調診断を行い、清浄化のための対策を提案してきた。メンテナンスの悪い空調システムを介して、人から人へのウイルス感染や風邪などのシックビル症候群の可能性が明らかになると、清浄化と空調管理に新しい視点の転換が必要になってくる。空調システム診断士による汚染診断に加えて、飛まつウイルスなどの消毒や除去の徹底をはかり、清浄なウイルスフリーの安全なビル空気を保つことが求められている。

JADCA 学術顧問 狩野文雄
(元東京都健康安全研究センター)

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